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チェロ弾きの平日~日々の記録とひとりごと
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SCC20にておそらく合同誌をお買い上げいただいた方の中で数名の方に、Violoncelloのごあいさつと情報を2つ続けて印刷してしまったペーパー(A4片面印刷のペーパーです。SSが載っていません)をお渡ししてしまいました。大変申し訳ありませんでした。
もしご希望でしたら新しいものをお送りいたしますので、ご一報いただければ幸いです。
本当に申し訳ありませんでした。


最近更新できていないので、せめてと思ってペーパーに載せたSSをupします。
とりあえずここに。時間を見つけてサイトtextに移動しますよ。



つづきよりどうぞ。


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てのひら
ふわりと大きな手が額を包み込む。夢うつつの中でその温かな手をしばらく堪能した後、そっと目を開けると、黒髪の少年がにこりと笑った。
「大丈夫かい?」
幼い顔立ちのわりに低めの声は耳に心地よく、また目を瞑りたくなる。
「ゆっくりお休み、そしてはやく元気になるんだよ」
遠のく意識のなかで、額に当てられたその手の温かさがとても心地よかった――

これが夢であることを、リザはどこかで理解していた。これは確か高熱を出した日の記憶だ。熱があるのに手が温かく感じるのはおかしい。第一、大人になった自分の前にあの黒髪の少年が現れるわけがない。
どこか冷静に理論づけている自分と、夢の心地よさを堪能しようとする自分。そんな夢と現実との狭間を行き来していると、ふわりと温かなものが額を包み込んだ。不思議に思って目を開けると、黒髪の上官が手を額に当てていた。
「大丈夫か?」
正夢か、夢で見たのと同じセリフを彼は言う。心配そうな顔は夢とは違うけれど。
「貧血で倒れたというから、驚いた」
温かな手がゆっくりと離れていった。名残惜しいと思うのは、何故だろう。
「仕事のことはいいからゆっくり休みなさい。無理しすぎだ」
相変わらず自分より大きな手は、やがて優しく髪を梳く。リザは目を閉じながら、昔も今もこの手に安心感を感じる自分にほんの少しだけくすぐったい気がした。


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成長期
いつも通りに師匠の家のドアをノックし開くのを待っていたロイは、顔を出した少女に妙な違和感を感じた。
決していつもと異なるようなものを身に付けているわけではない。彼女が着ているのは濃茶のベロアのワンピース、色も形も地味な感じのものである。しかし、何かがいつもと違うのだ。
「やあ、リザ。なんだか今日はいつもと雰囲気が違うね」
ワンピースの裾を摘んで俯いたリザからは、妙な色香が漂う。
そこでロイはようやく気づいた。ワンピースの丈が短くて、脚が太もも近くまで丸見えなのだ。痩せていて細いのは相変わらずだが、ウエストから腰へのラインはいつの間に肉がついたのかむっちりと丸みを帯びており、そこから白い脚がスラリと出ている。よく見れば袖も短く、胸のあたりもパツパツで窮屈そうである。
「寒くなってきたので冬服を出したんですけど、小さくなっちゃって……」
ロイはゴクリとつばを飲み込んで、そして自分の出したその音に我に返ると慌てて目線をそらした。これは正直、目の毒だ。
「マスタングさん?」
リザの訝しそうな声に、その場を取り繕うように慌てて言葉を探す。
「……やっぱり気になりますか?」
でも新調する余裕なんてないし、とリザは落ち込む。彼女はわかっていないのだ、今の自分の格好がどれだけ男を魅了するのかと言うことを。確か去年この服を着ていたときは、まだぶかぶかで野暮ったい印象だった。一年で身体が急激に大人っぽくなった彼女は、心はまだまだ子供のままだった。
チリンと自転車のベルの音が聞こえて、はっと振り向いたロイの目に映ったものは郵便屋の男の子だった。好奇心の塊のような表情をしてこちらを見ている。ロイは慌てて彼から郵便物をひったくると、あっけにとられるリザを家の中に押し込んで、ばたんと家の扉を閉めた。


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幸ノタメニ
錬丹術のお蔭で出血の止まった彼女を、無我夢中で抱きしめた。本能だった。多量の出血で冷えたその体を温めるために、大切な彼女を失わないために。
彼女を失う妄想は、これまで頭の中で幾度も繰り返してきた。それは彼女が自分の下を離れていくことだったり、或いはこの世を去ることだったり様々だったが、まるで現実味が伴わなかった。軍という組織の中にいれば期せずして死ぬことなど避けては通れない、まして現場に多く出ている自分と行動を共にするなら尚のこと。たとえそんな事態になっても、多少感情的になることはあれども、冷静に受け止められると思っていた。
だが現実に大量の血を流しだんだんと土気色になっていく彼女を目にすれば、冷静でいることなどできるわけがなかった。あふれる感情、どうすることもできないもどかしさ。これほど無力な自分を恨めしく思ったことはない。それだけ彼女の存在は自分の中で大きかった。部下として、師匠の娘として、共犯者として、それ以上に彼女を失いたくない感情がある。
現実に直面して改めて確信した感情。しかしまだ今は口にすべきではない。全てのことに決着がつくまでは。
大事なものを失わないために。大事なことを見失わないために。
「すまない…ありがとう」
――リザ。
心の中だけでそっと、その名を呼んだ。


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手紙
届いたばかりの封書を持って士官学生寮の自室に戻った私は、部屋に誰もいないのを確認してベッドに腰をおろし、その封書に綴られた文字をなぞる。
差出人はリザ・ホークアイ、半年ほど前まで門下に通っていた錬金術の師匠の一人娘である。シンプルな白い封書に綴られた小さく控え目な文字は、それでも小綺麗に並んで彼女らしさを表している。
いつもならビリビリと適当に破るところを、彼女からのものに限ってはそんな気分にもなれなくて、私はやたらと丁寧にその封を開けながら中の手紙を取り出した。その内容は時候の挨拶に始まり、私の健康を気遣う文句や先日私から送った手紙への礼、師匠の様子や近況等が並ぶ。そのすべてが当たり障りのないように書かれながら、不甲斐ない弟子に手紙を書くことすらしない師匠の代わりに頻繁に封書を寄越すことも含めて、彼女の意志を主張する。
士官学校に入ることは、錬金術を学ぶことと共に幼いころから抱いていた夢だった。だから、たとえ師匠に反対され破門同然だったとしても、ここに入学したことを後悔することはない。ただ、その一人娘の時折自分に向ける笑顔が見られなくなることに関しては、後ろ髪を引かれる思いだった。もともと表情が乏しかった彼女が日常的に笑顔をみせるようになったのは、もちろん彼女が学校で受けてきた影響もあるかもしれないが、その原因の大半は私にあると思うのは決して自惚れではないと思う。士官学校に入学する前に最後に師匠に挨拶に行った日、彼女が「また会えますよね?」と目に涙を浮かべながら見せた笑顔が、今でも鮮明に思い出される。日々生活することに精一杯であった彼女のどこにそんなものを捻出する余地があったのか、立派な軍人さんになってくださいと手渡された真新しい万年筆は、今も毎日胸ポケットに大切に入っている。
師匠にとって私は、己の錬金術を教えるための貴重な弟子であったに違いない。けれども、彼女はどうだろうか。愛娘であることは違いようもない事実であるが、けれどもそれ以上に師匠の中で錬金術の方に優先順位があることは否めない。そして出すぎることのない彼女がそれに対して不満をぶつけることは、おそらくそう多くはなかったであろう。だからその間に突然入ってきた私は、最初こそ彼女にとって父親の愛情を奪う憎らしい存在であっただろう。けれどもいつの間にか父親と自分を結ぶ貴重な存在となっていたそんな彼女が自分自身に憧れを抱くことも、決して不思議ではない。
5つも年下のまだ初等学校を出たばかりの少女に、学生とはいえ大の男がこんな想いを抱くことは好ましいものではないとは分かっている。けれども、気づいた時にはその対 象として彼女はいた。彼女自身が私に憧れ、けれどもだからといって普通の少女のように色目をつかったりすることは決してなく、慎ましやかに『父のお弟子さん』として私を尊重してくれたことに、かえって心惹かれた。彼女の笑顔が見たくて、彼女が少しずつ大人の女性になっていくのが嬉しくて、離れてもなお彼女とやりとりを続ける。いつか彼女が素敵な女性になったら、そして私が一人前の将校になりまた国家錬金術師として彼女に見合う男になることができたら、彼女を迎えに行きたいと、まるでおとぎ話に出てくる王子のように夢見ている。
そして私はこんな青臭い夢を持つ自分の姿をばかばかしいと思いながらも、今日も彼女を想いながら大切な万年筆にインクを浸し、彼女を想う文章を綴るのだ。
(Chopin : Etude Op.10-3 E-Dur『別れの曲』)
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ノーマルCPで二次創作中。ロイアイ、真剣赤黄、執恋真壁・中岡・樫原・大木、薄桜鬼土千がメインになることと思われます。
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