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チェロ弾きの平日~日々の記録とひとりごと
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1.郵便屋さん、

2.返信願望

3.置き去り手紙

4.作文に潜むあいうえお

5.隠す暗号の答え方

(お題:Dorothyさま)









1.郵便屋さん、


 ある日の午後のこと。所用で街に出ていたリザは、司令部に戻って早々、ハボックに声をかけられた。
「おかえりなさい、中尉。大佐からこれ、預かってるんスけど」
「大佐は?」
「中将ンとこ、呼び出されて行きましたよ」
「そう。またチェスかしらね」
 手渡されたのは二つ折りにされた小さなメモ。リザは受け取ったメモを開いてさっと目を通し、その内容に「こんなことは一々メモに残して自身に頼まなくても、その場にいる部下に頼めばいいものを」と独りごちてメモを畳もうとしたが、ふと何か引っ掛かるものを感じてメモにもう一度目を通した。




  今日から配布している
  夜勤担当一覧があっただろう?
  のこり僅かだったので
  予備を作成してもらいたい
  定時であがりたいから
  はやめに頼む
 



「なんて書いてあるんスか?」
 紙に穴が開くんじゃないかというほどメモを凝視し、そしてくすりと笑みをこぼすリザに、ハボックが興味深そうにメモを覗きこもうとした。だが、リザはメモをひらりと見せたと思うと内容を確認する暇も与えずメモを四つ折にし、まるで何事もなかったかのように胸ポケットにしまった。そして自席からメモ用紙を取ってくると、さらさらと伝言を書きつける。
「大佐が、今月の夜勤担当一覧の予備を作成してほしいんですって。私はさっき持ち帰った書類を先に片付けてしまうから、ハボック少尉、悪いんだけれども、これを大佐に渡しておいてくれる?」
 そう言ってリザは四つ折りにしたメモをハボックに手渡す。
 有無を言わさず渡されたメモに、ふと中身を見たいと思う欲求がハボックの胸中に頭を擡げるが、そこはさすがに大人の対応をせざるを得ない。いくら事務的な内容であれ、人のやり取りにあれこれ口出ししていいことなど、ない。
「俺、やりましょうか?」
「いいわ、私が後で用意するから」
「アイ、マム!」
 ちぇーっ、とこれ見よがしに声を上げたハボックは、その自分の行為にまったく興味を示さない上官に頭をポリポリと掻くと、火の着いていない煙草を咥えてそのメモをやはり胸ポケットに大切そうにしまった。


(2011.05.22)

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2.返信願望


「大佐、コレ預かってますよー」
 自身の執務室に戻ったロイは、ノックと共に入って来たハボックの顔を見て、うんざりした表情を浮かべた。中将の与太話からようやく解放されたかと思えば、今度は部下から声がかかる。ロイはめんどくさそうに「なんだ」と声のかかった方を見遣ると、ハボックがメモをひらひらとさせていた。その行為が却って気に障る気がして、近づいてきたハボックの手から乱暴にそれを奪う。
 やる気のない顔でメモを開いたにもかかわらず一読して口角を上げたロイに、ハボックは「中尉から夜勤担当一覧が足りないって聞いたんですけど?」と思わず尋ねた。すると、ロイはそのメモをハボックに見せる。



  特別少なめに印刷するよう頼んだわけではありませんが
  にぎやかな場所だったので、聞き間違いがあったかもしれません
  何部用意すればよろしいですか?
  もうしわけありませんでした




 確かにリザの言った通りだ、特に何か特別なことが書いてあるわけではない。だが、おそらくこの中にロイの喜ぶ情報が書いてあるのだろう。
 しかし残念なことに、ハボックが二度目を読む前に、ロイはいつの間にか装着していた発火布でそれを一瞬のうちに燃やしてしまった。そしてデスク上にあったメモ用紙にさらさらと書くと、ハボックに渡す。
「これを中尉に」
「あのー、俺は郵便屋じゃないんですけど」
「堅いこと言うな」
「っていうか、何やってるんですか、二人とも」
 やけにしつこく食い下がるロイに、ハボックは呆れた様子で片手を腰に当てた。だがロイはニヤリと意味ありげに笑んだ。
「文通、だな」
「あー、そーですか」
 アホらし、とハボックが呟きながらそのメモをまた胸ポケットにしまうと、執務室を出る。
「いなかったら机の上に置いておけばいいからな」
 扉を閉める際に聞こえた声かけに「ハイハーイ」と適当に返して、ハボックはリザを探すために踵を返した。



(2011.05.23)

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3.置き去り手紙


 外出先から持ち帰った書類を事務に提出して自席に戻ったリザは、デスクに置かれているメモに気付いた。見覚えのあるあまり綺麗とは言えない字で「中尉へ、大佐から預かりました」と書かれたコメントは、ハボックのものだろう。時計を見遣れば、なるほど彼は今、自分の隊の訓練時間だ。
 リザはくだらないことを続ける己の上官とそれに良いように付き合わされてやっている部下に、ため息をついた。大佐だってハボックの隊の訓練予定くらい知っているだろう。それにもかかわらず、こんなくだらないことに付き合わせるなんて。
 ハボックにしてもそうだ。彼だって決して暇ではないというのに、どうして引き受けるのか。彼の性格だ、おそらく訓練時間ぎりぎりまで自分のことを探し回り、見つからなかったからここに置いた違いない。付き合わされた彼を責めるのもかわいそうな話だが、彼だってこのメモに何か隠されていることがあることに薄々勘付いているはずだ、そんなものをこんな風に放置して誰かの目に触れることがあったら、どう責任取るつもりなのだろう。
 そんなことを思いながらリザはメモを開く。




  七部頼みたい
  時間はまだあるが、余裕を持ってお願いするよ
  にらみを利かせてまで急がせる必要はないが
  訪問者があるかもしれないからな
  ねんのため早めに渡してほしい
  るすにしていたら、デスクの上に置いといてくれ
  よろしく頼む




「まったく」
 思わず口をついて出てしまった言葉と、それでもメモの知らせる内容に浮足立つ己の心。決してこのやりとりを嫌がっていない自分がいるのも事実。
 矛盾する自分の想いに苦笑しながら、リザは夜勤担当一覧の原本を持って印刷室に向かった。


(2011.05.24)

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4.作文に潜むあいうえお


 リザがロイから依頼された夜勤担当一覧の追加を持って執務室の扉をノックすると、意外にも室内にはその主が在籍していた。 「入れ」という声に従って扉を開ければ、その主はデスクの前で書類と格闘している。
「あら、意外ですね」
 リザは己の上司の前に歩み寄った。
「意外、とはどういうことかな?」
「てっきりお遊びに夢中で、お留守かと思いました」
「今日は定時で帰らなければならない用事があるからな」
 それまでに終わらせなければ、と言ってにやりと笑うロイに、リザは苦笑して先ほど用意した書類を渡す。
 そこにはリザからのメッセージが書かれたメモが、一緒にクリップされていた。ロイは手を止めて渡された書類をデスク越しに受け取ると、そのメッセージに目を通す。


  おそくなりまして申し訳ありません
  待っておりましたが事務室の印刷機は
  ちっとも空く気配がありませんでしたので
  しかたなく資料室のものをお借りしました
  ていねいに印刷していただきましたが
  いつもと多少体裁が違うかもしれません
  まだ足りないようでしたらおっしゃってください
  すぐに準備いたします


 ふむ、とロイが満足げに頷くと、リザは少しばかり苦い顔をした。
「あんまり職場で遊ぶのはやめてくださいね」
 完全に二人きりのときも素知らぬ顔を通すリザにロイもまた苦笑すると、そのメモ用紙を裏返してその返信を綴る。
「気分を害したのなら、悪かった。だが、夜勤担当一覧が足りなかったのは本当だからな」
「別に気分を害したということはありませんが」
 言い訳しながらも部下に対しても悪びれることのもなく謝る上官には、どうも弱いとリザは思う。気分を害するどころかそのメッセージを嬉しく思ったほどなのだ。こんな風に謝れられてしまったら、怒る気にもなれない。
「人を巻き込まないでください。ハボック少尉だって忙しいのに、あれではかわいそうです」
「すまなかった、善処しよう」
 せめてもの苦言を進言すると、ロイはせっかく取りつけた約束を不意にすまいとばかりに素直に詫びた。そうしてロイはメモを書き終えたメモを見直すと、カチッと万年筆のキャップを閉めて資料の一番上に挟んだ。



(2011.05.25)

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5.隠す暗号の答え方


「悪いが、これをお願いしたい」
 そういって先ほど手渡した資料をそのまま戻されたリザは、その一番上に新たに挟まれたメモをさっと一読する。

  ありがとう
  いそがしいところに悪かったな
  しかも資料室まで行かせてしまってすまなかった
  てまついでにこの一覧を2部中将のところへ、
  るり色のファイルに残りをファイリングして欲しい

 一見すればただの要望が書かれただけのメモだ。だが、そこには今までの中で一番他人に見せられないような意味合いが込められている。さすがに察しの良い部下に任せられるような内容ではない。おそらく、リザの反応を見たかったのだろう。
 まったく、と声に出してため息をつけば、目の前の上官はくつくつと笑う。
「了解しました」
  少しばかり悔しさを覚えたリザは、すました顔を崩さずに表面上の要望に対する受諾の意を示し、そのメモを小さくたたむとポケットにしまった。
「ですが、本当にもうこれきりにしてくださいね。ただでさえ忙しいのですから、こんなくだらないことに時間をかけられません」
「くだらないことねぇ」
 どちらの意味ともとれるような言い方をすれば、ロイは椅子の背に身を凭れさせて少し残念そうに言う。
 リザは踵を返して執務室の扉の前までくると、くるりと上官の方を向いた。
「くだらなくても、嬉しかったですけれど」
 就業時間中にこんな風にリザが心の内を表に現すことは、珍しい。リザは、彼女のいたずらっぽい笑顔に瞠目している上官の顔をちらりと確認して、返事も待たずに執務室の外に出た。
 パタンと閉めた扉の前で、リザはもう一度そのメモをポケットから出して広げる。
「何を今更、ですよ」
 くすりと笑うと、数時間後に訪れるであろう楽しい時間を思い浮かべながら、軽やかな足取りで最高司令官の部屋に向かった。



(2011.05.26)

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お付き合いただきましてありがとうございました。お分かりいただけましたか?

分らない方はお題ヒント、「タテタテ、ヨコヨコ」です。このお題をタイトルにすればよかったかなぁ…

携帯の方にはわかりづらくて申し訳ありません。
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藤丸しゅん
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