チェロ弾きの平日~日々の記録とひとりごと
やっぱり文章が書きたくなって、先日のお題の続き。
急に仕事が休みになった(というか、休まざるを得なかった)ので、錬成。
5題全部うめられるかな?
つづきからどうぞ。
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拍手、pixivからの訪問もありがとうございました!
急に仕事が休みになった(というか、休まざるを得なかった)ので、錬成。
5題全部うめられるかな?
つづきからどうぞ。
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拍手、pixivからの訪問もありがとうございました!
2. 好きかも、しれない
きっかけは、小さな子供の何気ないひとことだった。
「お兄ちゃんは、好きな人いはるの?」
いつものごとく、千鶴が沖田に引っ張られて近所の小さな子どもたちと遊んでいた時のことである。
「千鶴ちゃんはね、僕のことが好きなの」
そういって沖田が千鶴の肩を抱き寄せると、子ども達から抗議の声があがる。
「えー、二人とも男衆やないか!」
「いいの。千鶴ちゃんかわいいし、女の子みたいだし」
「うへぇ!」
集まっていた男児たちは、いっせいに気持ち悪そうな声をだして駆け出していく。
「お兄ちゃん、ほんと?」
逆に女児たちは興味深そうに千鶴に聞いてくる。
「ち、違うよ。まさか!」
「なーんだ、あっという間に否定しちゃった。つまんないの」
千鶴があまりにも必死の形相で否定するため、沖田はおかしそうにそう言うと、逃げていった男児たちを追いかけていってしまった。
残された女児たちは、まだ恋愛話に花を咲かせる。
「じゃあ、好きな人他にいはるの?」
「うちはねぇ…」
女児のうちの一人が千鶴に耳打ちして、ふふふ、とほころぶ。
「なんて、なんて?」
それにつられて周りの女児たちも順に騒ぎ出し、子どもたちだけで賑やかしくなった。
そんな様子をほほえましく見ながら、千鶴は懐かしい昔を思い出す。
江戸にいた頃は、この幼い少女たちと同じように近所の年頃の女児と一緒になって恋愛談義をしたものだった。格好いい人がいると聞けばみんなでこっそりのぞきに行く、なんてこともあったなあと懐かしく思う。
好きな人。
ふと紫色の着物が頭の片隅をよぎり、千鶴は慌てて首をぶんぶんと振った。なぜ急にそのような思考に至ったのだろう、好きなどという感情で見たことは今まで一度もない。確かに容姿のよさは自他共に認めるもので、花街でもモテると聞く。新選組では鬼副長として名高いが、その実、優しさの方が勝っていることも最近わかってきたことだ。
とはいえ、今はとてもじゃないが、『好きな人』などとうつつを抜かしている場合ではない。この男所帯のなかで、どうやって暮らしていくかを考えるので精一杯の毎日だ。そして囚われの身、監視対象である自身が好きな人をつくるなど、おこがましい話である。
それでも、時折考えることがあるのだ。京に上ってこなければ、新選組に囚われなければ、今頃は好きな人と恋愛して、婚姻を結んでいたのだろうか。あるいは出会い方が違えば、土方のような新選組隊士たちと恋愛するようなこともあったのか、と。だが、連絡が途絶えてしまった父を江戸で待ち続けるという選択肢を自分は選ばなかっただろうし、たとえ新選組に囚われなくたって、自由に行動できた保障はない。今だからわかるが、死に絶えていた可能性だって充分考えられたのだ。
土方のような、という考えに千鶴はもう一度ぶんぶんと首を振って、思考を外に追い出した。気づけば女児たちも男児たちと共に走り去ってしまい、千鶴は一人ぽつんと残されていた。
遠くから「千鶴!」と呼ぶ声がする。振り向けば、件の紫がこちらを伺っていた。茶の要求だろうか。千鶴は「はい、ただいま」と大声で返し、まるで主人を見つけた犬っころのように駆けだした。
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